検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 でなくって、どうして島山のや、母様のが見ていられます。第一、乳母《ばあや》にだって面を見られるようよ。それにね、なぜか、誰よりも目の見えない娘が一番恐いわ。母さん、と云って、あの、見えない目で見られると、悚然《ぞっと》してよ。私は元気でいるけれど、何だか、そのために生身を削られるようで瘠せるのよ。可哀相だ、と思ったら、貴下、妙子さんを下さいな。それが何より私の安心になるんです。……それにね、他の人は、でもないけれど、母様がね、それはね、実に注意深いんですから、何だか、そうねえ、春の歌留多会時分から、有りもしない事でもありそうに疑《うたぐ》っているようなの。もしかしたら、貴下私の身体《からだ》はどうなると思って? ですから妙子さんさえ下されば、有形にも無形にも立派な言訳になるんだわ。ひょっとすると、母様の方でも、妙子さんの為にするのだ、と思っているのかも知れなくってよ。さえ見りゃ、(私がどうかして早瀬さんに承知させます。)と、母様が口を利かない先にそう言って置くから。よう、後生だから早瀬さん。」

 3342/3954 3343/3954 3344/3954


  [Index]