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 『婦系図』 青空文庫

 でなくって、どうして島山の顔や、様の顔が見ていられます。第一、乳《ばあや》にだって面を見られるようよ。それにね、なぜか、誰よりも目の見えない娘が一番恐いわ。さん、と云って、あの、見えない目で見られると、悚然《ぞっと》してよ。私は元気でいるけれど、何だか、そのために生身を削られるようで瘠せるのよ。可哀相だ、と思ったら、貴下、妙子さんを下さいな。それが何より私の安心になるんです。……それにね、他の人は、でもないけれど、様がね、それはね、実に注意深いんですから、何だか、そうねえ、春の歌留多会時分から、有りもしない事でもありそうに疑《うたぐ》っているようなの。もしかしたら、貴下私の身体《からだ》はどうなると思って? ですから妙子さんさえ下されば、有形にも無形にも立派な言訳になるんだわ。ひょっとすると、様の方でも、妙子さんの為にするのだ、と思っているのかも知れなくってよ。顔さえ見りゃ、(私がどうかして早瀬さんに承知させます。)と、様が口を利かない先にそう言って置くから。よう、後生だから早瀬さん。」

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