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 『婦系図』 青空文庫

「ならんのじゃない、なる、が、勝手にせんのだ。恋愛は自由です、けれども、こんな世の中じゃ罪になる事がある。盗賊《どろぼう》は自由かも知れん、勿論罪になる。人殺、放火《つけび》、すべて自由かも知れんが、罪になります。すでにその罪を犯した上は、相当の罰を受けるのがまた当前《あたりまえ》じゃありませんか。愚図々々塗秘《ぬりかく》そうとするから、卑怯未練な、吝《けち》な、了見が起って、他《ひと》と不都合しながら亭主の飯を食ってるような、猫の恋になるのがある。しみったれてるじゃありませんか。度胸を据えて、首の座へお直んなさい。私なんざ疾《と》くに――先生……には面は合わされない、お蔦……の顔も見ないものと思っている。この上は、どんなことだって恐れはしません。
 それに貴女は、島山さんに不快を感じさせながら、まだやっぱり、夫には貞女で、子には慈悲ある母親で、親には孝女で、社会の淑女で、世の亀鑑《きかん》ともなるべき徳を備えた貴婦人をしようとするから、痩せもし、苦労もするんです。

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