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『婦系図』 青空文庫
ト忌々《いみいみ》しいと言えば忌々しい、上框《あがりがまち》に、灯《ともしび》を背中にして、あたかも門火《かどび》を焚いているような――その薄あかりが、格子戸を透して、軒で一度暗くなって、中が絶えて、それから、ぼやけた輪を取って、朦朧と、雨曝《あまざれ》の木目の高い、門の扉《と》に映って、蝙蝠《こうもり》の影にもあらず、空を黒雲が行通うか何ぞのように、時々、むらむらと暗くなる……また明《あかる》くなる。
目も放さず、早瀬がそれを凝《じっ》と視《なが》める内に、濁ったようなその灯影が、二三度ゆらゆらと動いて、やがて礫《つぶて》した波が、水の面《おも》に月輪を纏《まと》めた風情に、白やかな婦《おんな》の顔がそこを覗いた。
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