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 『縁結び』 青空文庫

 一昨日《おととい》ね。私の両親《ふたおや》の墓は、ついこの右の方の丘《おか》の松蔭《まつかげ》にあるんだが、そこへ参詣《おまいり》をして、墳墓《はか》の土に、薫《かおり》の良《い》い、菫《すみれ》の花が咲いていたから、東京へ持って帰ろうと思って、三本《みもと》ばかり摘《つ》んで、こぼれ松葉と一所に紙入の中へ入れて。それから、父親《おやじ》の居《い》る時分、連立って阿母《おふくろ》の墓参《はかまいり》をすると、いつでも帰りがけには、この仁右衛門の堂へ寄って、世間話、お祖師様《そしさま》の一代記、時によると、軍談講釈、太平記を拾いよみに諳記《そら》でやるくらい話がおもしろい爺様《じいさま》だから、日が暮れるまで坐り込んで、提灯《ちょうちん》を借りて帰ることなんぞあった馴染《なじみ》だから、ここへ寄った。

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