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『歌行燈』
従吾所好
「えゝ……丁と早や、影法師も同然なもので。」と掠れ声を白く出して、黒いけんちう羊羹色の被布を着た、燈の影は、赤く其の皺の中へさし込んだが、日和下駄から消えても失せず、片手を泳ぎ、片手で酒の香を嗅分けるやうに入つた。
「聞えたか。」
と此の門附、権のあるものいひで、五六本銚子の並んだ、膳を又傍へずらす。
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