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 『婦系図』 青空文庫

 と見れば、貞造の死骸《なきがら》の、恩愛に曳《ひ》かれて動くのが、筵に響いて身に染みるように、道子の膝は打震いつつ、幽《かすか》に唱名の声が漏れる。
「よく御覧なさいましよ。貴女も見せてお上げなさいよ。ああ、暗くって、それではが、」
 手洋燈を摺《ず》らして出したが、灯《あかり》が低く這って届かないので、裏が紺屋の物干の、破〓子《やぶれれんじ》の下に、汚れた飯櫃《めしびつ》があった、それへ載せて、早瀬が立って持出したのを、夫人が伸上るようにして、霑《うるみ》をもった目を見据え、現の面で受取ったが、両方掛けた手の震えに、ぶるぶると動くと思うと、坂になった蓋を辷って、〓呀《あなや》と云う間に、袖に俯向いて、火を吹きながら、畳に落ちて砕けたではないか! 天井が真紫に、筵が赫《かっ》と赤くなった。

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