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 『婦系図』 青空文庫

 その時は当番の看護婦が、交代に二人ずつ附添うので、ただ(御気分はいかがですか、お大事になさいまし、)と、だけだけれども、心優しき生来《うまれつき》の、自《おのず》から言外の情が籠るため、病者は少なからぬ慰安を感じて、結句院長の廻診より、道子の端麗な、この姿を、待ち兼ねる者が多い。怪しからぬのは、鼻風邪ごときで入院して、貴女のお手ずからお薬を、と唸《うな》ると云うが、まさかであろう。
 で――この事たるや、夫の医学士、名は理順《りじゅん》と云う――院長は余り賛成はしないのだけれども、病人を慰めるという仕事は、いかなる貴婦人がなすっても仔細ない徳であるし、両親もたって希望なり、不問に附して黙諾の体でいる。

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