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 『婦系図』 青空文庫

 ト今夜もばたばたと、上草履の音に連れて、下階《した》の病室を済ました後、横田の田畝を左に見て、右に停車場《ステイション》を望んで、この向は天気が好いと、雲に連なって海が見える、その二階へ、雪洞《ぼんぼり》を手にした、白衣《びゃくえ》の看護婦を従えて、真中《まんなか》に院長夫人。雲を開いたように階子段《はしごだん》を上へ、髪が見えて、肩、帯が露《あらわ》れる。
 質素《じみ》な浴衣に昼夜帯を……もっともお太鼓に結んで、鼻緒に白足袋であったが、冬の夜なぞは寝衣《ねまき》に着換えて、浅黄の扱帯《しごき》という事がある。そんな時は、寝白粉《ねおしろい》の香も薫る、それはた異香薫《くん》ずるがごとく、患者は御来迎、と称《とな》えて随喜渇仰。

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