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『春昼』 泉鏡花を読む
(二三間あひを置いて、おなじやうな浴衣を着た、帯を整然と結んだ、女中と見えるのが附いて通りましたよ。
唯すれ違ひざまに見たんですが、目鼻立ちのはつきりした、色の白いことゝ、唇の紅さつたらありませんでした。
盛装と云ふ姿だのに、海水帽をうつむけに被つて――近所の人ででもあるやうに、無造作に見えましたつけ。むかう、然うやつて下を見て帽子の廂で日を避けるやうにして来たのが、真直に前へ出たのと、顔を見合はせて、両方へ避ける時、濃い睫毛から瞳を涼く〓《みひら》いたのが、雪舟の筆を、紫式部の硯に染めて、濃淡のぼかしをしたやうだつた。
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