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 『義血侠血』 青空文庫

 白糸は鬢の乱《おく》れを掻き上げて、いくぶんの赧羞《はずか》しさを紛らわさんとせり。馭者は月に向かえる美人の姿の輝くばかりなるを打ち瞶《まも》りつつ、固唾を嚥みてその語るを待てり。白糸は始めに口籠もりたりしが、直ちに心を定めたる気色にて、
「処女《きむすめ》のように羞ずかしがることもない、いい婆のくせにさ。私の所望《のぞみ》というのはね、おまえさんにかわいがってもらいたいの」
「ええ!」と馭者は鋭く叫びぬ。

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