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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 海辺《かいへん》は賑かでも、馬車が通って埃が立つ。閑静な処をお望み、間数は多し誂え向き、隠居所を三間ばかり、腰元も二人ぐらい附くはずと、御子息から相談を打《ぶ》たっしゃると、隠居と言えば世を避けたも同様、また本宅へ居直るも億劫なり、年寄と一所では若い御婦人の気が詰ろう。若いものは若い同士、本家の方へお連れ申して、土用正月、歌留多《うたがるた》でも取って遊ぶが可い、嫁もさぞ喜ぼう、と難有いは、親でのう。
 そこで、そのお嬢様に御本家の部屋を、幾つか分けて、貸すことになりましけ。或晩、腕車《くるま》でお乗込み、天上ぬけに《うつくし》い、と評判ばかりで、私《わし》らついぞお姿も見ませなんだが、下男下女どもにも口留めして、秘《かく》さしったも道理じゃよ。」

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