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 『婦系図』 青空文庫

 早瀬に過失《あやまち》をさすまいと思う己の目には、お前の影は彼奴《あいつ》に魔が魅《さ》しているように見えたんだ。お前を悪魔だと思った、己は敵《かたき》だ。間《なか》をせいたって処女《きむすめ》じゃない。真《まこと》逢いたくば、どんなにしても逢えん事はない。世間体だ、一所に居てこそ不都合だが、内証なら大目に見てやろうと思ったものを、お前たちだけに義理がたく、死ぬまで我慢をし徹《とお》したか。可哀相に。……今更卑怯な事は謂わない、己を怨め、酒井俊蔵を怨め、己を呪えよ!
 どうだ、自分で心を弱くして、とても活きられない、ぬなんぞと考えないで、もう一度石に喰《くい》ついても恢復《なお》って、生樹《なまき》を裂いた己へ面当《つらあて》に、早瀬と手を引いて復讐《しかえし》をして見せる元気は出せんか、意地は無いか。

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