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 『婦系図』 青空文庫

 風がそよそよと渡ると見れば、波のように葉末が分れて、田の水の透いたでもなく、ちらちらと光ったものがある。緩い、遅い、稲妻のように流れて、靄のかかった中に、土のひだが数えられる、大巌山の根を低く繞《めぐ》って消えたのは、どこかの電燈が閃いて映ったようでもあるし、蛍が飛んだようにも思われる。
 手水《ちょうず》と、その景色にぶるぶると冷くなって、直ぐに開けて出ようとする。戸の外へ、何か来て立っていて、それがために重いような気がして、思わず猶予《ためら》って、暗い中に、昼間被《き》かえた自分の浴衣のいのを、視《なが》めて悚然《ぞっ》として咳をしたが、口の裡で音には出ぬ。

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