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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

姥 (居直り)また……我儘《わがまま》を仰せられます。お前様、ここに鐘《つりがね》がござります。
雪 む、(と眦《まなじり》をあげて、鐘楼を屹《きっ》と見る。)
姥 お忘れはなさりますまい。山ながら、川ながら、御前様《おんまえさま》が、お座をお移しなさりますれば、幾万、何千の生類の生命《いのち》を絶たねばなりませぬ。剣ヶ峰千蛇ヶ池の、あの御方様とても同じ事、ここへお運びとなりますと、白山谷は湖になりますゆえ、そのために彼方《かなた》からも御越の儀は叶《かな》いませぬ。――姥《うば》はじめ胸を痛めます。……おいとしい事なれども、是非ない事にござります。

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