検索結果詳細


 『歌行燈』 従吾所好

「いや、横になる処ぢやない、沢山だ、此処で沢山だよ。……第一背中へ掴まられて、一呼吸でも応へられるか何うだか、実は其れさへ覚束ない。悪くすると、其のまゝ目を眩〈まは〉して打倒れようも知れんのさ。体よく按摩さんに掴み殺されると云つた形だ。」
 と真で言ふ。
「飛んだ事をおつしやりませ、田舎でも、これでも、長年年期を入れました杉山流のものでござります。鳩尾に鍼をお打たせになりましても、決して間違ひのあるやうなものではござりませぬ。」と呆れたやうに、按摩の剥く目は蒼かりけり。

 368/744 369/744 370/744


  [Index]