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『婦系図』 青空文庫
枕をかけて陰々とした、燈《ともしび》の間に、あたかも鞠のような影がさした。棚には、菅子が活けて置いた、浅黄の天鵝絨に似た西洋花の大輪《おおりん》があったが、それではなしに――筋一ツ、元来の薬嫌《ぎらい》が、快いにつけて飲忘れた、一度ぶり残った呑かけの――水薬《すいやく》の瓶に、ばさばさと当るのを、熟《じっ》と瞻《みつ》めて立つと、トントントンと壇を下りるような跫音がしたので、どこか、と見当も分らず振向いたのが表階子の方であった。その正面の壁に、一番明《あかる》かった燈《ひ》が、アワヤ消えそうになっている。
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