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 『婦系図』 青空文庫

 早瀬はその水薬《すいやく》の残余《のこり》を火影《ほかげ》に透かして、透明な液体の中に、芥子粒ほどの泡の、風のごとくめぐる状《さま》に、莞爾して、
「面い!」
 と、投げる様に言棄てたが、恐気《おそれげ》も無く、一分時の前は炎のごとく真紅《まっか》に狂ったのが、早や紫色に変って、床に氷ついて、飜《ひるがえ》った腹の青い守宮《やもり》を摘《つま》んで、ぶらりと提げて、鼻紙を取って、薬瓶と一所に、八重にくるくると巻いて包んで、枕許のその置戸棚の奥へ、着換の中へ突込んで、ついでにまだ、何かそこらを探したのは、落ちた蛾を拾おうとするらしかったが、それは影も無い。

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