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 『龍潭譚』 青空文庫

 「お遊びな、一所にお遊びな。」とせまりて勧めぬ。小家《こいえ》あちこち、このあたりに住むは、かたゐといふものなりとぞ。風俗少しく異なれり。児《こ》どもが親たちの家富みたるも好《よ》き衣《きぬ》着たるはあらず、大抵跣足なり。三味線弾きて折々わが門に来るもの、溝川に鰌を捕ふるもの、附木《つけぎ》、草履など鬻ぎに来るものだちは、皆この児どもがなり、父なり、祖などなり。さるものとはともに遊ぶな、とわが友は常に戒めつ。さるに町方の者としいへば、かたゐなる児ども尊び敬ひて、頃刻《しばらく》もともに遊ばんことを希ふや、親しく、優しく勉めてすなれど、不断はこなたより遠ざかりしが、その時は先にあまり淋しくて、友欲しき念の堪へがたかりしその心のまだ失せざると、恐しかりしあとの楽しきとに、われは拒まずして頷きぬ。

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