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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

姥 お忘れはなさりますまい。山ながら、川ながら、御前様《おんまえさま》が、お座をお移しなさりますれば、幾万、何千の生類の生命《いのち》を絶たねばなりませぬ。剣ヶ峰千蛇ヶ池の、あの御方様とても同じ事、ここへお運びとなりますと、白山谷は湖になりますゆえ、そのために彼方《かなた》からも御越の儀は叶《かな》いませぬ。――姥《うば》はじめ胸を痛めます。……おいとしい事なれども、是非ない事にござります。
雪 そんな、理窟を云って……姥、お前は人間の味方かい。
姥 へへ、(嘲笑《あざわら》い)尾のない猿ども、誰がかばいだていたしましょう。……憎ければとて、浅ましければとて、気障《きざ》なればとて、たとい仇敵《かたき》なればと申して、約束はかえられませぬ、誓を破っては相成りませぬ。

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