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 『婦系図』 青空文庫

 と、主税が後へずらないとその膝に乗ったろう、色気も無く、寝台の端に、後向きに薄いお太鼓の腰をかけると、緋鹿子がまた燃える。そのままお妙は俯向いて、玉のごとき頸《うなじ》を差伸べ、
「お切んなさいよ、さあ、早くよ。父上《とうさん》も知っていてよ、可いんだわ。」
 と美しく流眄《ながしめ》に見返った時、危なく手がふるえていた。小刀の尖《さき》が、夢のごとく、元結を弾くと、ゆらゆらと下った髪を、お妙が、はらりと掉《ふ》ったので、颯と流れた薄雲の乱るる中から、ふっと落ちた一握《ひとにぎり》の黒髪があって、主税の膝に掛ったのである。

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