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『婦系図』 青空文庫
と美しく流眄《ながしめ》に見返った時、危なく手がふるえていた。小刀の尖《さき》が、夢のごとく、元結を弾くと、ゆらゆらと下った髪を、お妙が、はらりと掉《ふ》ったので、颯と流れた薄雲の乱るる中から、ふっと落ちた一握《ひとにぎり》の黒髪があって、主税の膝に掛ったのである。
早瀬は氷を浴びたように悚然《ぞっ》とした。
「お蔦さんに託《ことづか》ったの。あの、記念《かたみ》にね、貴下に上げて下さいッて、主税さん、」
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