検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 と美しく流眄《ながしめ》に見返った時、危なく手がふるえていた。小刀の尖《さき》が、夢のごとく、元結を弾くと、ゆらゆらと下った髪を、お妙が、はらりと掉《ふ》ったので、颯と流れた薄雲の乱るる中から、ふっと落ちた一握《ひとにぎり》の黒髪があって、主税の膝に掛ったのである。
 早瀬は氷を浴びたように悚然《ぞっ》とした。
「お蔦さんに託《ことづか》ったの。あの、記念《かたみ》にね、貴下に上げて下さいッて、主税さん、」

 3757/3954 3758/3954 3759/3954


  [Index]