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 『婦系図』 青空文庫

 風は終日《ひねもす》無かった。蒸々《むしむし》と悪気の籠った暑さは、そこらの田舎屋を圧するようで、空気は大磐石に化したるごとく、嬰児《みどりご》の泣音《なくね》も沈み、鶏の羽《は》さえ羽叩くに懶《ものう》げで、庇間《ひあわい》にかけた階子《はしご》に留まって、熟《じっ》と中空を仰ぐのさえ物ありそうな。透間に射し入る日の光は、風に動かぬ粉にも似て、人々の袖に灰を置くよう、身動《みじろぎ》にも払われず、物蔭にも消えず、細《こまや》かに濃く引包《ひッつつ》まれたかの思《おもい》がして、手足もも同じ色の、蝋にも石にも固《かたま》るか、とばかり次第に息苦しい。

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