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 『婦系図』 青空文庫

 これは蓋し一門の大統領、従五位勲三等河野英臣の発議に因て、景色の見物をかねて、久能山の頂で日蝕の観測をしようとする催《もよおし》で。この人達には花見にも月見にも変りはないが、驚いて差覗いた百姓だちの目には、天宮に蝕の変あって、天人たちが遁げるのだと思ったろう。
 共に清港の別荘に居る、各々《めいめい》の夫は、別に船をしつらえて、三保まわりに久能の浜へ漕ぎ寄せて、いずれもその愛人の帰途《かえり》を迎えて、夜釣をしながら海上を戻る計画。

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