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『婦系図』
青空文庫
田を行く時、白鷺が驚いて立った。村を出る時、小店の庭の松葉牡丹に、ちらちら一行の影がさした。聯《つらな》る車は、薄日なれば母衣《ほろ》を払って、手に手にさしかざしたいろいろの日傘に、あたかも五彩の絹を中空に吹き靡かしたごとく、
死
したる風も颯と涼しく、美女《たおやめ》たちの面を払って、久能の麓へ乗附けたが、途中では人一人、行脚の僧にも逢わなかったのである。
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