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 『湯島の境内』 青空文庫

お蔦 ねえ、貴方、私やっぱり、亡くなった親の情《なさけ》が貴方に乗憑《のりうつ》ったんだろうとそう思いますわ。……こうして月夜になったけれど、今日お午《ひる》過ぎには暗く曇って、おつけ晴れて出られない身体《からだ》にはちょうど可《い》い空合いでしたから、貴方の留守に、お《っか》さんのお墓まいりをしたんですよ。……飯田町《いいだまち》へ行ってから、はじめてなんですもの。身がかたまって、生命《いのち》がけの願《ねがい》が叶《かな》って、容子《ようす》の可い男を持った、お蔦はあやかりものだって、そう云ってね、お《っか》さんがお墓の中から、貴方によろしく申しましたよ。邪険なようで、可愛がって、ほうり放しで、行届いて。

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