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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
嫁入道具に附いて来た、藍貝柄《あおがいえ》の長刀《なぎなた》を、柄払いして、仁右衛門親仁が担ぎました。真中へ、お産婦の釣台を。そのわきへ、喜太郎様が、帽子《シャッポ》かぶりで、蒼くなって附添った、背後《うしろ》へ持明院の坊様が緋の衣じゃ。あとから下男下女どもがぞろぞろと従《つ》きました。取揚婆さんは前《さき》へ早や駆抜けて、黒門のお部屋へ産所の用意。
途中、何とも希有《けう》な通りものでござりまして、あの蛍がまたむらむらと、蠅がなぶるように御病人の寝姿に集《たか》りますと、おなじ煩うても、美しい人の心かして、夢中で、こう小児《こども》のように、手で取っちゃ見さしっけ。
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