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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 途中、何とも希有《けう》な通りものでござりまして、あの蛍がまたむらむらと、蠅がなぶるように御病人の寝姿に集《たか》りますと、おなじ煩うても、美しい人の心かして、夢中で、こう小児《こども》のように、手で取っちゃ見さしっけ。
 上へ手を上げさっしゃるのも、御容体を聞くにつけ、空をつかんで悶えさっしゃるようで、目も当てられぬ。
 それでも祟《たた》りに負けるなと、言うて、一生懸命、仰向かしった枕をこぼれて、さまで痩せも見えぬ白い頬へかかる髪の先を、確乎《しっかり》白歯で噛ましったが、お馴染じゃ、私《わし》が藪の下で待つけて、御新造様しっかりなさりまし、と釣台に縋ったれば、アイと、細い声でいうて莞爾と笑わしった。橋を渡って向うへ通る、暗《やみ》の晩の、榛《はん》の木の下あたり、蛍の数の宙へいかいことちらちらして、常夏の花の俤立《おもかげだ》つのが、貴方の顔のあたりじゃ、と目を瞑って、おめでたを祈りましたに……」

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