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 『天守物語』 泉鏡花を読む

薄 これは又御挨拶でござります――あれ、何やら、御天守下が騒がしい。(立つて欄干に出づ、遥に下を覗《のぞき》込む)……まあ、御覧なさいまし。
夫人 (座のまゝ)何だえ。
薄 武士が大勢で、篝《かゞり》を焚《た》いて居ります。ああ、武田播磨守殿、御出張、床几に掛《かゝ》つてお控へだ。おぬるくて、のろい癖に、もの見高な、せつかちで、お天守見届けのお使ひの帰るのを待兼ねて、推出《おしだ》したのでござります。もしえ/\、図書様のお姿が小さく見えます。奥様、おたまじやくしの真中で、ご紋着のご紋も河骨《かうぼね》、すつきり花が咲いたやうな、水際立つてお美しい。……奥様。

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