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 『天守物語』 泉鏡花を読む

薄 武士が大勢で、篝《かゞり》を焚《た》いて居ります。ああ、武田播磨守殿、御出張、床几に掛《かゝ》つてお控へだ。おぬるくて、のろい癖に、もの見高な、せつかちで、お天守見届けのお使ひの帰るのを待兼ねて、推出《おしだ》したのでござります。もしえ/\、図書様のお姿が小さく見えます。奥様、おたまじやくしの真中で、ご紋着のご紋も河骨《かうぼね》、すつきり花が咲いたやうな、水際立つてお美しい。……奥様。
夫人 知らないよ。
簿 おゝ、兜あらためがはじまりました。おや、吃驚《びつくり》した。あの、殿様の漆見たいな太い眉毛が、びく/\と動きますこと。先刻《さつき》の亀姫様のお土産の、兄弟の、あの首を見せたら、何《ど》うでございませう。あゝ、御家老が居ます。あの親仁《おやぢ》も大分百姓を痛めて溜込《ためこ》みましたね。そのかわり頭が兀《は》げた。まあ、皆が図書様を取巻いて、お手柄にあやかるのか知ら。おや、追取刀《おつとりがたな》だ。何、何、何、まあ、まあ、奥様々々。

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