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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 余りの事に、取逆上《とりのぼ》せさしったものと見えまして、喜太郎様はその明方、裏の井戸へ身を投げてしまわしった。
 井戸替もしたなれど、不気味じゃで、誰も、はい、そのを飲みたがりませぬ処から、井桁も早や、青芒《あおすすき》にかくれましたよ。
 七日に一度、十日に一度、仁右衛門親仁や、私《わし》が許の宰八――少《わか》いものは初《はじめ》から恐ろしがって寄つきませぬで――年役に出かけては、雨戸を明けたり、引窓を繰ったり、日も入れ、風も通したなれど、この間のその、のう、嘉吉が気が違いました一件の時から、いい年をしたものまで、黒門を向うの奥へ、木下闇《こしたやみ》を覗きますと、足が縮んで、一寸も前へ出はいたしませぬ。

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