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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 正面にくぎり正しい、雪白な霞を召した山の女王のましますばかり。見渡す限り海の色。浜に引上げた船や、畚や、馬秣のやうに散ばつたかじめの如き、いづれも海に対して、我は顔をするのではないから、固より馴れた目を遮りはせぬ。
 且つ人一人居なければ、真昼の様な月夜とも想はれよう。長閑さはしかし野にも山にも増つて、あらゆる砂の俤は、暖い霧に似て居る。
 鳩は蒼空を舞ふのである。ゆつたりした浪にも誘はれず、風にも乗らず、同一処を――其の友は館の中に、こと/\と塒を踏んで、くゝと啼く。

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