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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

姥 ああ、お最惜《いとし》い。が、なりますまい。……もう多年《しばらく》御辛抱なさりますと、三十年、五十年とは申しますまい。今の世は仏の末法、聖《ひじり》の澆季《ぎょうき》、盟誓《ちかい》も約束も最早や忘れておりまする。やッと信仰を繋《つな》ぎますのも、あの鐘を、鳥の啄《つつ》いた蔓葛《つたかずら》で釣《つる》しましたようなもの、鎖も絆《きずな》も切れますのは、まのあたりでござります。それまでお堪《こら》えなさりまし。
雪 あんな気の長い事ばかり。あこがれ慕う心には、冥土《よみじ》の関を据えたとて、夜《よ》のあくるのも待たりょうか。可《よ》し、可し、衆《みな》が肯《き》かずば私が自分で。(と気が入る。)

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