検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 とその顔へ、打着《ぶつ》けるように声を懸けた。またこれがその(おう。)の調子で響いたので、お源が気を揉《も》んで、手を振って圧えた処へ、盤台《はんだい》を肩にぬいと立った魚屋は、渾名《あだな》を(め組)と称《とな》える、名代の芝ッ児。
 半纏は薄汚れ、腹掛の色が褪せ、三尺が捻《ね》じくれて、股引《ももひき》は縮んだ、が、盤台は《うつくし》い。
 いつもの向顱巻《むこうはちまき》が、四五日陽気がほかほかするので、ひしゃげ帽子を蓮の葉かぶり、ちっとも涼しそうには見えぬ。例によって飲《き》こしめした、朝から赤ら顔の、とろんとした目で、お蔦がそこに居るのを見て、

 39/3954 40/3954 41/3954


  [Index]