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 『天守物語』 泉鏡花を読む

図書(急《せ》きつゝ)お情余る、お言葉ながら、活きようとて、討手《うつて》の奴儕《やつばら》、決して活かして置きません。早くお手に掛け下さいまし。あなたに生命を取らるれば、もうこの上のない本望、彼等に射たるゝのは口惜《くちをし》い。(夫人の膝に手を掛く)さ、生命を、生命を――恁《か》う云ふ中《うち》にも取詰めて参ります。
夫人 否、此処までは来ますまい。
図書 五重の、其の壇、其の階子《はしご》を、鼠のごとく、上《あが》りつ下《お》りついたしおる。……豫《かね》ての風説《ふうせつ》、鬼神《おにがみ》より、魔よりも、此処を恐《おそろ》しと存じて居るゆゑ、聊か躊躇はいたしますが、既に、私の、恁《か》く参つたを、認めて居ります。恁う云ふ中にも、唯今。

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