検索結果詳細


 『歌行燈』 従吾所好

「按摩だ、が其の按摩が、旧は然る大名に仕へた士族の果で、聞きねえ。私等が流儀と、同じ其の道の芸の上手。江戸の宗家も、本山も、当国古市に於て、一人で兼ねたり、と言ふ勢で、自から宗山〈さうざん〉と名告る天狗。高慢も高慢だが、また出来る事も出来る。……東京の本場から、誰も来て怯かされた。某も参つて拉がれた。あれで一眼でも有らうなら、三重県に居る代物ではない。今度名古屋へ来た連中も然うぢや、贋物ではなからうから、何も宗山に稽古をして貰へとは言はぬけれど、鰻の他に、鯛がある、味を知つて帰れば可いに。――と才発〈さいはじ〉けた商人風のと、でつぷりした金の入歯の、土地の物持とも思はれる奴の話したのが、風説の中でも耳に付いた。

 408/744 409/744 410/744


  [Index]