検索結果詳細


 『歌行燈』 従吾所好

「後で、能く気がつけば、信州のお百姓は、東京の芝居なんぞ、真個の猪はないとて威張る。……な、宮重大根が日本一なら、蕪の千枚漬も皇国無双で、早く言へば、此の桑名の、焼蛤も三都無類さ。
 其の気で居れば可いものを、二十四の前厄なり、若気の一図に苛々〈いら/\〉して、第一其の宗山が気に入らない。(的等。)もぐつと癪に障れば、妾三人で赫とした。
 維新以来の世がはりに、……一時〈ひとしきり〉私等の稼業がすたれて、夥間が食ふに困つたと思へ。弓矢取つては一万石、大名株の芸人が、イヤ楊枝を削る、かるめら焼を露店で売る。……蕎麦屋の出前持に成るのもあり、現在私が其小父者などは、田舎の役場に小使ひをして、濁り酒のかすに酔つて、田圃の畝に寝たもんです。……

 421/744 422/744 423/744


  [Index]