検索結果詳細
『日本橋』 青空文庫
清葉は前刻から見詰めた扇子で、お孝の魂が二階から抜けて落ちたように、気を取られて、驚いて、抱取る思いがしたのである。
潜って流れた扇子の余波か、風も無いのにさらさらと靡く、青柳の糸の縺れに誘われた風情して、二階にすらりと女の姿。
お孝は寝床を出た扱帯。寛い衣紋を辷るよう、一枚小袖の黒繻子の、黒いに目立つ襟白粉、薄いが顔にも化粧した……何の心ゆかしやら――よう似合うのに、朋輩が見たくても、松の内でないと見られなかった――潰島田の艶は失せぬが、鬢のほつれは是非も無い。
422/2195
423/2195
424/2195
[Index]