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 『歌行燈』 従吾所好

 維新以来の世がはりに、……一時〈ひとしきり〉私等の稼業がすたれて、夥間が食ふに困つたと思へ。弓矢取つては一万石、大名株の芸人が、イヤ楊枝を削る、かるめら焼を露店で売る。……蕎麦屋の出前持に成るのもあり、現在私が其小父者などは、田舎の役場に小使ひをして、濁り酒のかすに酔つて、田圃の畝に寝たもんです。……
 其の妹だね、可いかい、私の阿〈おふくろ〉が、振袖の年頃を、困る処へ附込んで、小金を溜めた按摩めが、些とばかりの貸を枷に、妾にせう、と追ひ廻はす。――危く駒下駄を踏返して、駕篭でなくつちや見なかつた隅田川へ落ちようとしたつさ。――其の話にでも嫌ひな按摩が。

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