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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 磯を横ツ飛の時は、其の草鞋を脱いだばかりであつたが、やがて脚絆を取つて、膝まで入つて、静かに立つて居たと思ふと、引返して袴を脱いで、今度は衣類をまくつて腰までつかつて、二三度密と潮をはねたが、又ちよこ/\と取つて返して、頭を刎退け、衣類を脱いで、丸裸になつて一文字に飛込んだ。陽気はそれでも可かつたが、泳ぎは知らぬ児と見える。唯勢よく、水を逆に刎ね返した。手でなぐつて、足で踏むを、海水は稲妻のやうに幼児を包んで其の左右へ飛んだ。――雫ばかりの音もせず――獅子はひとへに嬰児になつた、光は頭を撫で、緑波は胸を抱いた。何等の寵児ぞ、天地の大きな盥で産湯を浴びるよ。

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