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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 法師が入った口とは対向《さしむか》い、大崩壊《おおくずれ》の方の床几のはずれに、竹柱に留まって前刻《さっき》から――胸をはだけた、手織縞の汚れた単衣に、弛んだ帯、煮染《にし》めたような手拭をわがねた首から、頸《うなじ》へかけて、耳を蔽うまで髪の伸びた、色の黒い、巌乗造りの、身の丈抜群なる和郎《わろ》一人。目の光の晃々《きらきら》と冴えたに似ず、あんぐりと口を開けて、厚い下唇を垂れたのが、別に見るものもない茶店の世帯を、きょろきょろと〓《みまわ》していたのがあって――お百姓に、船頭殿は稼ぎ時、土方人足も働き盛り、日脚の八ツさがりをその体《てい》は、いずれ界隈の怠惰《なまけ》ものと見たばかり。小次郎法師は、別に心にも留めなかったが、不意の笑声《わらいごえ》に一驚を吃して、和郎《わろ》のと、折敷《おしき》の団子を見較べた。

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