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 『湯島の境内』 青空文庫

お蔦 何だねえ、気の弱い。掏賊《すり》の手伝いをしたッて、新聞に出されて、……自分でお役所を辞職した事なんでしょう。私が云うと、月給が取れなくなったのを気にするようで口惜《くや》しいから、何にも口へは出さなかったけれど、貴方、この間から鬱《ふさ》いでいるのはその事でしょう。可《い》いじゃありませんか。蹈《ふ》んだり蹴《け》たりされるのを見ちゃ、掏賊だって助けまいものでもない、そこが男よ。ええ、私だって柳橋に居りゃ助けるわ。それが悪けりゃ世間様、勝手になさいな。またお役所の事なんか、お墓のお母《っか》さんもそう云いました。蔦がどんな苦労でも楽《たのし》みにしますから、お世帯向は決《け》して御心配なさいますなって、……云ってましたよ。
早瀬 難有《ありがた》い、俺《おい》ら嬉しいぜ。
お蔦 女房に礼を云う人がありますか。ほんとうにどうかしているんだよ。

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