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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 今しがた小雨が降つて、お天気が上ると、お前様、雨よりは大きい紅色の露がぽつたりぽつたりする、あの桃の木の下の許さ、背戸口から御新姐が、紫色の蝙蝠傘さして出てござつて、(爺やさん、今ほどは難有う。其の厭なものの居た事を、通りがかりに知らして下すつたお方は、巌殿の方へおいでなすつたと云ふが、未だお帰りになつた様子はないかい。)ツて聞かしつた。
(どうだかね、私、内方へ参つたは些との間だし、雨に駈出しても来さつしやらねえもんだで、未だ帰らつしやらねえでごぜえませう。
 それとも身軽でハイずん/\行かつせえたもんだで、山越しに名越の方さ出さつしやつたかも知れましねえ、)言うたらばの。

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