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『高野聖』
泉鏡花を読む
其時裏の山、向うの峰、左右前後にすく/\とあるのが、一ツ/\嘴を向け、頭を擡げて、此の一落の別天地、親仁を下手に控へ、馬に面して彳んだ月下の美女の姿を差覗くが如く、陰々として深山の気が篭つて来た。
生ぬるい風のやうな気勢がすると思ふと、左の肩から片膚を脱いだが、右の手を脱して、前へ廻し、ふくらんだ胸のあたりで着て居た其の単衣を円げて持ち、霞も絡はぬ姿になつた。
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