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 『日本橋』 青空文庫

 病気のために失心して、娑婆も、苦労も忘れたか、不断年より長けた女が、かえって実際より三つ四つも少ないくらい、ついに見ぬ、薄化粧で、……分けて取乱した心から、何か気紛れに手近にあったを着散したろう、……座敷で、お千世がいつも着る、紅と浅黄と段染の麻の葉|鹿の子の長襦袢を、寝衣の下に褄浅く、ぞろりと着たのは、――かねて人が風説して、気象を較べて不思議だ、と言った、清葉が優しい若衆立で、お孝が凜々しい娘|形、――さながらのその娘風の艶に媚かしいものであった。
 お孝は弛んだ伊達巻の、ぞろりと投遣りの裳を曳きながら、……踊で鍛えた褄は乱れず、脛のありとも見えぬ、蹴出捌きで、すっと来て、二階の縁の正面に立ったと思うと、斜めにそこの柱に凭れて、雲を見るか、と廂合を恍惚と仰いだ瞳を、蜘蛛に驚いて柳に流して、葉越しに瞰下し、そこに舞扇を袖に受けて、見上げた清葉と面を合せた。

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