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 『歌行燈』 従吾所好

 と出た、風が荒い。荒いのが此の風、五十鈴川で劃〈かぎ〉られて、宇治橋の向うまでは吹くまいが、相の山の長坂を下から哄と吹上げる……此が悪く生温くつて、灯の前ぢや砂が黄色い。月は雲の底に淀〈どんよ〉りして居る。神路山の樹は蒼くても、二見の波はからう。酷い勢、ぱつと吹くので、たぢたぢと成る。帽子が飛ぶから、其のまゝ、藤屋が店へ投返した……と背筋へ孕んで、坊さんが忍ぶやうに羽織の袖が翻々〈ひら/\〉する。着替へるのも面倒で、昼間のなりで、神詣での紋付さ。――袖畳みに懐中へ捻込んで、何の洒落にか、手拭で頬被りをしたもんです。

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