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 『婦系図』 青空文庫

 と優《やさし》い声、はッと花降る留南奇《とめき》の薫に、お源は恍惚《うっとり》として顔を上げると、帯も、袂《たもと》も、衣紋も、扱帯《しごき》も、花いろいろの立姿。まあ! 紫と、水浅黄と、白と紅咲き重なった、矢車草を片袖に、月夜に孔雀《くじゃく》を見るような。
 め組が刎返《はねかえ》した流汁の溝溜《どぶだまり》もこれがために水澄んで、霞をかけたる蒼空が、底しく映るばかり。先祖が乙姫に恋歌して、かかる処に流された、蛙の児よ、いでや、柳の袂に似た、君の袖に縋れかし。

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