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 『五大力』 従吾所好

 真俯向けに、其の鼈の、甲羅に仇光りが薄く射して、人魂の泳ぐやうな奴を、すぢり、もぢり、おつと、おつと、おつと/\、……やあ、畜生め。で、追廻はして、占めたと圧へた。逆にぐい、と歯向つた首を逃げて、慌てて、つかまへ直すと、水を離れて、鼈はぶらりと下る。
 さげて立つた。先づ可しと、……此奴が傍で見ると恰も魅〈つま〉まれた形ぢやないかね。処を、当人大得意です。
 さて持参に及ぶんだがね、此から先電車のお世話に成るのに、……澄ました顔ぢや持てますまい。袂も変だし、其処で、気が着いたのは帯に結へて居た風呂敷だ。箱には打紐が掛つて居るから、それなり附け直しても可し、露出〈むきだし〉で持つたつて構はない、傘〈からかさ〉は何時の昔、何処へ投出したんだか、鼈の立廻りで行方〈ゆきがた〉知れず……でもそんな事はお構ひない。

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