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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 親仁は差心得たものと見える、此の機かけに手綱を引いたから、馬はすた/\と健脚を山路に上げた、しやん、しやん、しやん、しやんしやん、しやんしやん、――見る間に眼界を遠ざかる。
 婦人は早や衣服を引かけて縁側へ入つて来て、突然帯を取らうとすると、痴は惜しさうに押へて放さず、手を上げて、婦人の胸を圧へようとした。
 邪慳に払ひ退けて、屹と睨んで見せると、其まゝがつくりと頭を垂れた、総ての光景は行燈の火も幽に幻のやうに見えたが、炉にくべた柴がひら/\と炎先を立てたので、婦人は衝と走つて入る。空の月のうらを行くと思ふあたり遥に馬子唄が聞えたて。」

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