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 『春昼』 泉鏡花を読む

「何にいたせ、私なぞが通りすがりに見掛けましても、何んとも当りがつかぬでございます。勿論又、坊主に鑑定の出来よう筈はなけれどもな。其の眉のかゝり、目つき、愛嬌があると申すではない。口許なども凛として、世辞を一つ言ふやうには思はれぬが、唯何んとなく賢げに、恋も無常も知り抜いた風に見える。身体つきにも顔つきにも、情が滴ると言つた状ぢや。
 恋ひ慕ふものならば、馬士でも船頭でも、われら坊主でも、無下に振切つて邪険にはしさうもない、仮令恋はかなへぬまでも、然るべき返歌はありさうな。帯の結目、袂の端、何処へ一寸障つても、情の露は男の骨を溶解かさずと言ふことなし、と申す風情。

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